COLMUN

コラム / IT化経営羅針盤

  1. TOP
  2. コラム / IT化経営羅針盤
  3. IT化経営羅針盤244 少しアンテナを高くしておこう EUのDPP制度

IT化経営羅針盤244 少しアンテナを高くしておこう EUのDPP制度

2025.05.13

前回のコラムでは、「EUのDPP(デジタルプロダクトパスポート)のその先」という趣旨で、「義務となったDPPに受け身で対応するのはもったいない」という持論を展開しました。しかし、DPPについて日本国内であまりにも情報が乏しく、そもそも対応の方向性さえ見えていない状態であることをすっかり見落としていました。ある読者から「DPPへの基本的な対応ができないと危ないのではないか?」というご質問を頂き、私のコラムがやや先を急ぎすぎていたことを反省しています。そこで今回は、DPPの“脅威”の側面について整理してお伝えしたいと思います。

DPPの概要

デジタル製品パスポート(Digital Product Passport:DPP)とは、製品に関するさまざまな情報(原材料、部品構成、修理・メンテナンス方法、リサイクル情報など)をデジタル形式で記録・管理する仕組みです。これはEUが掲げる「グリーンディール政策」の中核をなすもので、循環型経済(サーキュラーエコノミー)実現のための制度の一つです。

DPP制度は2025年から段階的に導入され、まずはバッテリー、繊維製品、電子機器が対象となります。2026年には自動車や産業機械、2027年以降にはさらに対象製品が拡大し、2030年までにほぼすべての工業製品がDPP対応を求められる予定です。

このDPP情報は、Catena-XやManufacturing-Xといったデータ流通プラットフォームを通じてやり取りされることが想定されています。人手ではなく、システムによる自動収集・自動共有が前提です。つまり、手作業による情報提供では対応が現実的ではなくなるということです。

さらに重要なのは、EU市場に製品を直接輸出していない企業であっても、EU向け完成品の部品供給をしている場合にはDPP対応が求められる点です。これは、間接輸出を含む広範なサプライチェーン全体に影響するルールであり、多くの日本企業にとって決して他人事ではありません。

日本企業にとっての脅威

DPP制度は、日本企業に対して次のような課題を突きつけています。

第一に、プロセス全体がシステム化されていない企業にとっては、部品単位のDPP情報の収集と管理そのものが非常に困難です。

「輸出の際のパラメータシートのように、求められたときに提出すれば良いのでは?」という声も聞かれますが、それでは全く対応できません。DPPは製造BOMをベースに、構成部品それぞれのDPP情報を含んだ一品一様のリアルタイム情報を必要とするからです。設計から製造、出荷、廃棄に至るまでの全工程にわたって、常に最新の情報を保持し、即座に開示できることが求められるのです。

第二に、部分的なITツールで部門ごとに最適化されている企業では、データの一貫性と統合性を保ちながらDPP情報をまとめあげることが極めて難しくなります。設計変更や4M(Man・Machine・Material・Method)の変動があった際、それらをすべてのシステムに正確かつ迅速に反映し、最終的に一貫性あるDPPとして提供できなければなりません。

さらに、海外サプライヤーから正確なデータをタイムリーに取得する必要もありますが、それを実現できる体制を整えている企業はまだ多くありません。情報が不完全なサプライヤーを抱えている場合、データ統合の障害となるでしょう。

日本企業はどう備えるべきか?

まずは、設計から出荷までのエンドツーエンドのプロセス全体を一貫して管理できるシステムを持つことが理想です。とはいえ、中小企業にとってこれは一朝一夕に構築できるものではありません。したがって、段階的アプローチが現実的です。

現状の業務プロセスやシステム環境を見直し、データの標準化と正規化を最初のステップとして位置付けるべきです。部門ごとに異なるデータ表現をしているような状態では、正しいDPPデータは作れません。これは現場の情報運用を見直すという、かなり骨の折れる作業ですが、避けて通ることはできません。

また、現在日本では「ウラノス・エコシステム」という国産データ基盤の構築が進められており、EUのプラットフォームとの相互運用も議論されています。米国なども同様の取り組みを始めており、今後輸出に関わるものづくり企業は接続が必須になってゆく可能性があります。したがって、いまのうちから、自社の業界団体からの情報をこまめに収集し、標準化されたデータ構造とそれを支える統合システムの準備を進めておく必要があります。

DPPのその先にあるもの

先のコラムでも触れましたが、こうした制度にただ「順守するだけ」では、企業にとってはコスト増でしかありません。しかし、DPPを通じて顧客や取引先とデータで繋がるという視点に立てば、これはカスタマーサクセスを推進するための仕組みともなり得ます。正しくデータを整え、それを「戦略」として活用すれば、DPP対応は企業成長のトリガーとなる可能性を秘めているのです。

制度対応を「守り」の施策として受け止めるのではなく、「攻め」のきっかけとして活かす。そのためには、早めに情報をキャッチアップし、少しだけアンテナを高くしておくことが、今後の企業成長にとって非常に大きな意味を持つのではないでしょうか。

無料メール講座登録

経営者様向けのIT化ヒントが詰まった無料メール講座や代表コラム「IT化経営羅針盤」、各種ご案内をお届けします。

お名前
Mail

資料請求

パンフレット、コンサルに関する資料のご請求は下記フォームからお願いします。

資料請求フォーム

CONTACT

お問い合わせ

お問い合わせフォーム

(TEL: 050-8892-1040)

Page Top