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コラム / IT化経営羅針盤
IT化経営羅針盤274 「AIで合理化できた」はずなのに…消えた工数問題
2026.03.24

AIを導入して作業を合理化しているにもかかわらず、その合理化分が実際の人件費削減につながらず、社員の仕事の質だけが変わってしまっている――このような話をよく耳にします。最近では新聞でも、大手IT企業において「AI導入の効果は確実にあった。しかし合理化できたはずの工数が空かない」という趣旨の記事が掲載され、多くの方が目にされたことでしょう。この「消えた工数削減問題」は、AI導入に限らず、さまざまなIT化の場面で見られる現象です。当社ではこれを「典型的なデジタル化失敗」と捉えています。
では、これらの消えた工数はいったいどこへ行ってしまったのでしょうか。私はこれまで数多くの「消えた工数」問題を見てきましたが、実はこれは日本独特の現象であると捉えています。少し踏み込んで説明してみましょう。
まず話を単純化するため、AIやシステム導入が成功裏に完了したケースのみを対象とします。例えば「導入はしたものの動いていない」「動いてはいるが効果が乏しく、むしろ手間が増えた」といった典型的な失敗例は除外します。また、導入計画時に効果見積もりを行わず、曖昧な期待のまま導入したケースも検討対象から外します。このような場合はそもそも効果測定ができないことが多く、AIやソフトを導入した後に「作業が〇%削減できた」といった定量的な評価ができません。これも大きな問題ですが、この種の失敗談だけでも一晩語れるほどのボリュームがありますので、ここではひとまず置いておきます。
これらを除外すると、AIやソフトが確実に稼働し、何らかの改善効果が出ているケースだけが残ります。ここで、当社のお客様の現場で実際に起きた事例を紹介しましょう。
この会社(以下A社)は、社員20名、製造現場を中心に配属されているパート・アルバイトなどの非正規社員20名、合計約40名の樹脂製造業です。多品種少量生産で、小口の受注が多数寄せられる業態でした。事務職員は正社員1名とパート1名の合計2名で、日々大量の発注伝票がFAXやメールで届いていました。また、材料発注業務も担っていたため、取引先への発注伝票、納期回答、納品書、請求書などが机の上に山積みになっていました。彼らは優秀で経験も長く、近年は入力ミスもほとんどありませんでした。しかし書類量の多さは明らかで、担当者が休暇を取ると業務状況が把握できなくなるという課題がありました。
そこでA社では「少なくとも紙の伝票業務はなくそう」という方針のもと、AI搭載型OCRソフト(以下AI-OCR)を導入しました。
AI-OCRは、スキャンされたPDFや複合機で受信したFAXデータから文字を認識し、システム登録用の表形式へ自動変換します。近年ではFAXであっても実際の作成はパソコンで行われることが多く、印字は活字です。そのためAI-OCRはほぼ100%に近い精度で読み取りが可能です。また定型帳票であれば、入力欄の属性(数字・型番・アルファベットなど)を事前設定することで精度はさらに向上します。このため人間は基本的に検算程度の作業で済むはずでした。
導入前、伝票入力は上記2名で対応しており、これがAI化によって0.5人分の工数で済むと試算されていました。
しかし、実際には工数はほとんど減りませんでした。試算と結果との間に大きな乖離があったためヒアリングを行ったところ、担当者から次のような説明がありました。
伝票が正しく届かないことが多く、電話確認することが多い
電話で内容を聞き、伝票到着前に入力することが多い
入力作業はそもそも単純で短時間で済む作業だ
伝票には顧客側の記載ミスが多く、その確認や連絡に時間を取られていた
つまり、担当者は日頃から顧客や社内への配慮として多くの調整業務を行っており、AIはその部分を代替できなかったのです。その結果、AI-OCR導入の効果は限定的なものにとどまりました。
本来であれば導入試算段階でこの点を予見すべきでしたが、当時実施した業務プロセス可視化の粒度が粗く、「入力作業」としか表現されていなかったため、入力以外の例外作業があることを事前に検出できなかったのです。
皆さんはどう感じられるでしょうか。担当者が行っていたのは、極めて日本的な配慮や思いやりとも言える行動であり、ビジネス合理性の観点では見過ごされがちなものです。しかし実際に時間をかけて行われていた業務であり、これを直ちに廃止すれば顧客に不便が及ぶことは明らかです。
これが、海外であれば事情は大きく異なるでしょう。伝票の誤記は記入者の責任、未送付は送付者の責任と明確に割り切られるケースが多いはずです。このドライな考え方は合理的ではありますが、このようなドライな考え方をA社の担当者にそのまま適用すれば、顧客の反発だけでなく担当者のモチベーション低下も招くでしょう。
このように、期待した効果が計画通りに実現しない事態を防ぐためには、業務プロセスの可視化に手を抜くことはできません。現実問題として表面的な作業で終わりがちな可視化作業を、ここまでの粒度で実施している企業は多くありません。しかし、A社のような配慮業務は、可視化を徹底すれば必ず「例外作業」として表面化します。つまり、日本企業がAIやシステム導入の効果を最大化するためには、このような実態を踏まえた細やかな可視化が不可欠なのです。
この点を正しく認識し、業務可視化を進めること。それができれば、日本企業の生産性は確実に向上すると私は考えています。
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