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コラム / IT化経営羅針盤
IT化経営羅針盤251 IT業者 実は業務プロセス設計に関心がない
2025.07.15

このコラムではたびたび「業務プロセス」という言葉が登場します。この領域は本来、ユーザー企業が主導して取り組むべき分野ですが、高度なノウハウが必要なのでIT業者にいろいろな期待をしてしまいがちです。ところが実は、IT業者の多くはこの業務プロセス設計に対して非常に無関心、あるいは無頓着であるという現実があります。
なお、ここで言う「IT業者」とは、あくまでも筆者がとらえている平均的な企業像であり、すべての業者に当てはまるわけではないことは、あらかじめお断りしておきます。
システム業者の責任範囲とユーザーの期待値はズレている
基幹システムや生産管理システムなど、複数の業務にまたがるソフトウェアを導入する際には、業務プロセスの可視化と再設計が極めて重要です。業務プロセスに課題が残ったままでは、作業効率が悪化したり、紙ベースの運用が解消できなかったり、最悪の場合にはシステムが「動くのに使えない」といった事態すら起こり得ます。
なぜなら、システムとは「ソフトウェアの機能」と「人間の業務プロセス」が協調して初めて成り立つものだからです。しかし、ここにひとつの不都合な構造があります。それは、
IT業者は「ソフトを納品し、仕様どおりに動作すれば自分たちの責任は果たした」と考える傾向が強い
という点です。
たしかに、操作マニュアルや手順書の作成、操作説明といったサポートはIT業者の責任範囲に含まれます。しかしそれはあくまでも「ソフトの正しい使い方」の説明であって、「ユーザー企業の業務プロセスをどう改善するか」という視点は含まれていないことがほとんどです。
ところが、導入検討の商談段階では、営業担当者から「業務を改善できます」「作業を合理化できます」といった言葉が頻繁に使われます。さらに、少し踏み込んだ提案として、「この業務とこの業務の間にギャップがありますね」などと、いかにも業務プロセスに踏み込むと思わせる指摘をされることもあるでしょう。
こうした説明を受けたユーザー企業側は、つい次のような誤解をしてしまいます。
「このソフトを導入すれば、業務が自動的に効率化されるのではないか」
「ソフトに業務を合わせれば、自然と合理化されるだろう」
「業務プロセスも一緒に見直してくれるに違いない」
つまり、「業務プロセス改革もIT業者が支援してくれる」という期待が、知らず知らずのうちに膨らんでしまうのです。
しかし現実には、契約が締結されシステムの納品フェーズに入った途端、IT業者はソフトの設定やテストに集中し、業務プロセスの支援にはほとんど手を出さなくなります。結果として、「ソフトは導入されたが、業務改革は中途半端なまま」というミスマッチが起きるのです。
業務プロセスの設計は、ユーザー企業の責任である
このように、IT業者の多くは業務プロセスには関心がなく、契約上の責任もありません。したがって、業務プロセスの再設計は、ユーザー企業が自ら取り組むべき作業になります。
しかしここにも落とし穴があります。それは、
「ソフトが動き出してみないと、どんな業務プロセスにすれば良いのか分からない」
ということです。いくら仕様書や設計書が事前にあっても、それだけで業務プロセスを具体的にイメージできる企業は少数派です。結局、納品されて操作できるようになった段階から、業務プロセスの調整を始めることになってしまいます。
このような「後追い設計」では、導入スケジュールが遅れたり、せっかくの改善機会を逃してしまうリスクが高まります。 また、ソフトに業務を無理に合わせることで、これまで企業が持っていた良い習慣や特長まで失われてしまう恐れもあります。
業務プロセス改革はIT業者選定時点で着手せよ
ここで、明確に申し上げたいのは、
IT業者を決定する前の段階で、そのソフトによって業務プロセスがどう変わるのかを理解しておくべきである
ということです。
具体的には、以下の二つに注意します。
まず、商談段階で自社の業務プロセスをどこまで理解しているかテストするのです。特にボトルネックとなっているような作業プロセスを一つ二つ例として示し、ソフトを入れることでどのような変革が起きるのかを説明してもらいます。この説明が的外れだったり、説明できなかった場合には、そのIT業者には業務プロセスを語る実力が無い、ということになります。
二つめは、「提案に業務プロセス改革に対してどのようなサービスを提供してくれるのか」明確に記載してもらうことです。製造業などでは業務プロセスが比較的長くて複雑なので、ソフトの説明程度のことしかやってもらえないようであれば、立ちゆかなくなってしまいます。
そして、業務プロセスの改革ポイントを明確化するタスクを、導入プロジェクトの前の方で実施することにより、以下のような効果を得ることができます。
要件定義がスムーズに進む(後戻りが減る)
テスト・検収フェーズが効率的になる
納品と同時に運用開始が可能になる
これら二つに注意することで、「業務プロセスに踏み込みます」という営業トークに惑わされること無く、業者を選定することが可能となります。これらに注意を払わなかったことにより、契約してから「それは委託業務範囲外だ」と切り捨てられるケースは後を絶ちません。
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このような取り組みを怠った結果、「せっかくシステムを導入したのに、業務改善効果が出ていない」という中小企業を数多く見てきました。
また、「失敗」とまでは言えないものの、投資に見合ったリターンが得られていない企業も非常に多いのが実情です。
業務プロセスの再設計まで見据えた支援ができるIT業者の価値を高く評価し、育てていく。
それが、システム導入失敗という悲劇を減らすほとんど唯一の処方箋だと考えています。
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