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IT化経営羅針盤55 業務システム構築はなぜ予算オーバーする?中小企業が陥りやすい落とし穴(3)

「鈴木さん、受注管理システムをある会社に発注したのですが、追加費用の見積書を持ってくるので困っています。しかもこれで2回目です。この先も増額される可能性があるか相談にのってくれませんか?」これは、2年ほど前にある樹脂加工メーカーさんにお邪魔した際に常務取締役の方がおっしゃっていた言葉です。システム化プロジェクトの途中における増額、これは良くみかけることで、ほんのちょっとのコツを心得ていれば回避することも有る程度可能である場合もあります。全部が全部回避できるわけではないですが、元々大型投資になりがちなシステム化プロジェクトですので、少しでも回避できればかなり大きな効果になるはずです。では、どのようなことがこの会社では起きていたのか見てみましょう。
この会社では、まず見積書を提示された段階で、様々な値引き交渉を試みました。ソフトウェアに関する細かい機能などの調整は発注した後のことですので、この段階での価格交渉はいわゆる「価格ネゴシエーション」です。平たい言葉で言えば「値切り」です。値切りである以上、精神論や事業の継続性などの非技術的要因による価格交渉となります。その結果、双方ともに程よく折れて金額妥結に至り、正式な契約を締結しました。当然、その契約書は委託契約になるため、金額の前提となる機能についても有る程度細かく記載されています。しかしそこに現実の画面が掲載されているわけでもありませんし、実現する機能についての詳細が記載されている訳でもありません。それらは契約の後の要件定義で明確化されるものだからです。
さて、晴れて契約締結し、要件定義作業も終了し、いざ設計段階に突入した時に問題が徐々に発覚しはじめました。設計段階では必要とされる機能について事細かく定めていくことになります。開発会社によってその定め方の手法が異なることがありますが、多くの場合「この機能はこのような画面でこのような機能を想定しています」という具体的な説明をされ、それについて導入者側が要望を述べることになります。ここで大きな罠が隠れているのです。例えば、在庫管理の機能をとりあげて見てみましょう。

開発会社の説明「出荷の為のピッキング実績を登録した時点で在庫が引き落とされる仕様になっています」
導入会社側の要望「いやいや、受注を登録したら即座に在庫を引き当てておかないと、在庫が残っている様に見えてしまうため、他の受注を取ってしまうトラブルが発生するからそれではダメだ」

双方とも「在庫管理機能」のことを語っており、両方とも正論です。しかし、製品の流れの速い会社では在庫引き当ての機能が無いと現場が回りません。一方システム会社側のスタンスは「実在庫により管理する主義」をとっていたため、このように在庫機能の細かな機能をお互いが説明した際にはじめて誤解があったことに気がつくわけです。
さらに、システム会社側が在庫引き当ての概念を持っていなかった場合、これは「新しい機能を作れ」という強い要望に見えるので追加開発となります。開発者から見れば要求されたことは「もともと見積もりには入っていなかった新機能」となるのです。そんな認識ですので、当然「追加開発見積書」が出てくる事態に至ります。しかも、在庫管理機能で増額見積書が来ただけでなく、顧客管理機能など他の機能を議論していると、双方のポリシーが合致していない機能がもっと発覚することもあり、さらに増額されるというスパイラルに陥ることも多く見かけます。こうなると「増額に次ぐ増額」という事態に陥るため、前述の通り担当常務は疑心暗鬼になってしまうわけです。
では、どうすればこのようなスパイラルに陥ることを防止できるのではしょうか?その方法は一つしかありません。「購入者側が考えている要求機能の概要を説明する資料を契約書締結の前に説明する」ことです。この段階では2者の間に相互の信頼性が構築できているわけではないので、いくら説明書を提示したところで誤解が残存する可能性はあります。しかし、簡単なものであっても書類は書類です。この会社の場合には、「在庫管理機能とは、実際に在庫を移動した際のデータでの受払がリアルタイムにでき、かつ、受払の予定を「引き当て」として事前登録できる」という程度に書いておけば良かった、ということです。私の経験上、ここまで書いてあれば後の協議の際に「こちらの考えをきちんと示してあったので増額には応じられない」という拒否を押し通すことができたケースが多くあります。何事もとにかく「意思を明確に提示しておく」ことが肝要なのです。システム会社側もこのようなことを避けるために「機能説明書」を契約の前に説明する会社もあります。しかし、その内容が難解なことも多く、読んでも精査しきれないケースもあるので、要求機能の概要説明書を書いて渡すことには大きな意義があると考えています。
もちろん、ほとんどのシステム会社は今回の様な不満が噴き出さないようにきちんと管理していますが、ギリギリの価格で妥結した場合、つまり値引き交渉が上手かった場合、システム会社も余裕が全く無くなりますので、少しでも手間が増えれば彼らの収益も問題になります。値引き交渉が生み出した双方のリスクと言っても良いでしょう。

今時、「書類に書いて渡して・・・」などという古くさくて遠回りな仕事はやりたくないのも解りますが、何しろ大金が動くプロジェクト。石橋を叩かないと渡りきれない時もあるものです。

以上、大きなシステム投資を考える為の注意すべきポイントとなります。参考になれば幸いです。

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